みーた、ヒモになりたい

ちょっぴりノスタルジックな現役大学生の世界観

僕は掃除が出来ない

いつしか部屋が汚いと思わなくなった自分がいた。これはインテリアだ。

 

僕は掃除が出来ない。正確に言えば、取り出した物を同じところに戻さないので、日が経つにつれて机の上や床に物が散らばってしまうということだ。部屋が綺麗な状態で使い始めた最初の1、2週間はものすごく気を付けている。どこから取ったのかもちろん覚えているし、ちょっと距離がある所で使ったものでもいちいち同じ場所に帰しにくる。ほらね、出来る男でしょ。そう思ってちょっとににやけ顔をするのだ。当然、流石に僕も汚い部屋にはしたくない。

 

ところが数週間経つと、床には服がちらばり教科書が散乱、しまいには授業でもらったプリントはファイリングされることなくぐちゃぐちゃに折れて机から落ちかけている。

無理なのだ。整理整頓などやったことが無い。実家では学校に行っている間に親が勝手に部屋に入り掃除機をかけゴミ箱に広げられたビニール袋を持って行ってしまう。掃除を鍛える場所が無い。もちろん学校では掃除の時間は設けられていて決められたグループで決められた場所を雑巾がけするなり箒掛けするなり行うが、それは公共の場であって自分一人のスペースではない。自分のテリトリーを守ることに神経を注げるのはゲームの中だけなのだ。

 

僕が人の家にお邪魔するときはなるべくその人の部屋を汚くしないようにする。もし何かご飯を作って一緒に食べることになったら皿洗いや後始末などはわりと率先してやる方だ。シンクに皿を残していくのは人の部屋を乱雑にしたことと同じだ。しかしながら自分の部屋ではそうはいかない。実家では料理をしたり皿洗いをしたことはほどんどないし、本格的な部屋掃除は大晦日の時に親に強制的にさせられた。ましてやお風呂掃除、トイレ掃除、庭掃除などその他もろもろのことに関わったことがあるのは、小さいころ「〇〇掃除してくれたら〇円あげる」なんていう親の甘い言葉に騙されて無垢な僕が目を輝かせて一生懸命働いてた時くらいだ。

 

浪人時代、仙台の寮に入っていたことがあった。これが初めての自分だけの住処だった。部屋はちょっと狭かったけど、トイレと風呂があって浪人生にとってはもったいないくらい快適な場所だった。好きなロックバンドのギターリストの真似をエアでしている時も、よく聞く曲をわざと転調してかっこつけて歌ってキメている時も、携帯でエッチな動画を見てる時も、急な親フラに怯えなくても良いということが幸せだった。最高な日々だった。

それから数週間、部屋はジャングルと化した。一瞬だった。部屋の綺麗な状態と汚い状態の境目が無かった。0からカウントが始まって1の次は、何故か9だった。2が来ると思っていた僕は一人暮らしというものを舐めきっていた。甘かった。綺麗な状態とは一体どんな状態だったのか思い出せないくらい、床のフローリングは見えなかった。

 

「...地元の大学、行こっか」。親が寮に来て、僕の部屋に入った時に最初に行った一言がこれだ。今でも覚えている。地元の大学は浪人しなくたって、それこそ現役で適当に受けても受かるような私立大学ではあるが、それでも親は僕に死なない生活をしてもらうことの方が大事らしかった。それくらい汚かった。らしい。確か11~12月くらいにある3者面談で親が僕の部屋に来るまで、僕はそこで一回も本格的な掃除をせずに生活していた。その後もたまに親がやってきては掃除をしておいしいご飯を食べさせてもらっていた。悲しいことに、僕は掃除はしないのだ。させてもらえなかった。お前とやると時間かかるだろうから端っこに居てと言われてその通りにした。寝る前夜な夜なエッチな動画を見ていたベッド、かつてギターの真似に使っていた赤本、アニメオタク友達とアニメイトに行って親に内緒で買ったライトノベル。床は綺麗な木の色を見せ、本は棚にちゃんと戻され、ベッドのシーツは綺麗に張られていた。端っこの方で立って見ていた僕は自分のテリトリーが崩壊していく感覚を知った。

 

親に甘やかされた結果がこれだ。将来結婚して子供が出来たら、料理、洗濯、掃除は絶対に教えてあげたいと心に誓った。僕は出来ないので奥さんにお願いするんだけど。

 

札幌のこの部屋も、今年で4年だ。そこそこ広くて立地も良い。親に感謝だ。親孝行したくて掃除の1歩目や2歩目は一生懸命頑張っている。それでも親は毎年「掃除しに行こうか?」と聞いてくる。1度や2度じゃない。電話する度にだ。信用されていない。まるで僕が全く掃除をしていないみたいに。全く掃除が出来ないみたいに。失礼な話だ。床に置いてある服だって、部屋にあるAmazonの段ボールだって、1,2年生の時に貰って捨てきれていないプリント類だって、僕の部屋の一部だ。僕の部屋では、部屋にある全てのものがインテリアなのだ。

 

部屋が汚いなんて、言わせない。